Match Review 「ネガティブトランジションの意識付けに見られる相馬新監督の修正優先度」2021 J1 #10 徳島ヴォルティス[TOK] vs 鹿島アントラーズ[KSM]

ザーゴ監督から相馬監督に交代した鹿島アントラーズ。チームとしての問題点がいくつか見えていたとしても、シーズン途中の監督交代(方針転換)は優先度をつけて1つずつ行う必要があるはず。徳島相手に初陣を飾った鹿島アントラーズだが、試合を通じて「ネガティブトランジション」における守備の意識を強く持ってこの試合に入ったのではないかと思う。そのあたり、直前の札幌戦との比較で振り返りたい。 現状の鹿島アントラーズの問題・課題 客観的にみると、現状の鹿島アントラーズには以下の問題や課題があるように思える。それぞれ簡単に振り返りたい。 ビルドアップのかたち 得点力 選手のストロングを活かしきれていないシステム ビルドアップのかたち ザーゴ監督の元では、ゴールキーパーからのビルドアップは、ショートパスを繋ぎ前線にボールを運ぶスタイルを徹底していた。ところが、多くの場合で相手のプレスにつかまってしまい、カウンターを受ける場面が目立っていた。 得点力 第10節を終えた時点で、(この試合での1得点を含め)11得点はJ1で12位。失点も12失点と10位。上田、エヴェラウドという強力FW陣を擁するチームとしてはやはり物足りないところ。得点に関しては、1位の川崎フロンターレが30得点とずば抜けているが、得点力上位7チームが15得点以上しているところからも、優勝を狙うチームとしてはここにもテコ入れが必要そうではある。 選手のストロングを活かしきれていないシステム 前述の得点力にも関連して、鹿島のなかでエヴェラウドというリーグ屈指のクオリティの強さ、高さ、決定力を誇るFWがいまだ2得点。昨シーズン終盤戦では、前線のエヴェラウドを攻撃の起点とするかたちでエヴェラウドを活かしていたようにみえていたが、今シーズンはスペースへのランニングを主体とするスタイルになり、この個性を活かしきれていないように思える。 「まずは守備から」という意識付け 公式リリースはされていないが、何らかの理由でエヴェラウド、ファンアラーノがベンチ外となった本戦。新監督が意識付けしたのは、「守備の意識」という点ではないかと推測する。ボールロスト時(相手ゴールキックになったり、キーパーに保持された時を除く)に攻撃→守備への切り替えが早く、強いプレス強度でボール奪取からのカウンターを狙うかたちが目立った本戦。前節の札幌戦との比較で検証してみたい。いずれの試合も、試合が落ち着き出した前半15分〜前半40分あたりの、事前に準備していたかたちが見えやすい時間帯で比較している。 ネガティブトランジションにおける切替えの早さ 札幌戦 #09の札幌戦では、この時間帯に3回のネガティブトランジションのシーンがあった。3回中1回で即プレスに行く対応をみせた。 時間 ボールロストエリア 1stディフェンスの対応 17:39 センターライン付近 土居、レオシルバはプレスにいかず、リトリートして構える対応 27:49 アタッキングサード ファンアラーノが素早いネガティブトランジションから相手のパスをブロック 33:33 センターライン付近 上田はプレスにいかず、パスコースをケアする 札幌戦でのネガティブトランジション 徳島戦 #10である本戦では、この時間帯に6回のネガティブトランジションのシーンがあった。29:25のシーンは少し微妙ではあるが、ほぼすべてのシーンでプレスに行く構えをみせた。特に30:00のシーンはこの後の2次攻撃で得たコーナーキックから先制点を奪っているため、この守備がくしくも得点力不足の解消にも一役買ったことになる。 時間 ボールロストエリア 1stディフェンスの対応 18:12 センターライン付近 荒木が即プレスに行く 19:02 アタッキングサード 三竿が即プレスに行く 26:00 アタッキングサード ボールロストした荒木がそのままGKにバックパスされたボールにプレスをかける 27:05 アタッキングサード ロスト後相手がクリアしたボールにオーバーラップ気味に町田がプレス 29:25 コーナー付近 土居、永戸はリトリートの対応も、三竿が遅れてプレスにいく 30:00 PA付近 上田のシュートのこぼれ球にレオシルバ、常本がプレス 徳島戦でのネガティブトランジション 札幌戦では、見直してみると鹿島は攻撃がシュートシーンやサイドラインを割るなど、試合が「切れる」かたちで完結することが多く、徳島戦ではむしろ相手に「奪われる」かたちが多かったことが、このネガティブトランジションの回数からも見えてくる。札幌も徳島も異なるスタイルのチームなので一概にいえないが、それでもネガティブトランジション時の切替えについては、この数日間で徹底的に練習してきたことをうかがわせる。 ポゼッションする徳島に対してサイドに追いやる守備 相手がボールを保持した際の守備については、前節と大きく変わらない。中央を固めつつ、ボールがサイドに出たところでMF中心に囲む形。札幌は前線の選手と後方の選手が入れ替わることでこのプレスを突破する工夫があったが、徳島はこのプレスに手を焼くことになった。 相手ビルドアップに対するハイプレス 前半から徳島はGK+3枚の最終ラインでボールを回しながら空きをみつけ前線にボールを運ぶスタイルをみせていた。後半開始早々のこの場面では、ボランチのレオシルバが2トップと共に相手の3枚の最終ラインにマン・ツー・マンでつく形をみせる。こういったアグレッシブなハイプレスはザーゴ監督時代にはみられなかった。 勝負の分かれ目 ポゼッションを重視する徳島は、ディフェンス時にはしっかり引いて守る鹿島の守備陣系をなかなか崩せない。60分のこのシーンなど、ロングフィードもうまく使いながら前線に起点をつくるも、裏抜けする浜下を使うことなく、ボールロストのリスクの少ないバックパスを選択している。このあたりのリスクマネジメントも、やっと来日が叶ったダニエル ポヤトス監督にとっては修正ポイントの1つになってくるのではと思う。 まとめ 鹿島アントラーズ目線でいうと、前節からの変化点は以下。特に、前節精彩を欠いたように写っていたキャプテン三竿のパフォーマンスが向上しているのは好材料になるはず。 エヴェラウド、ファンアラーノの不在 前線からのハイプレス 三竿のパフォーマンス向上 スピードより強さ、上手さに長けるエヴェラウド不在ゆえに、インテンシティの高い守備ができる白崎、荒木を前線に配置できたとも言えるし、ハイプレスからのカウンターという戦術が「構えて守る」というより「ボールを奪いに行く」ことに長けた三竿のパフォーマンスが向上したとも言える。 一方で、前節対戦した札幌に比べると、徳島は前線のキーマンである垣田不在もあり、鹿島のプレスをかわす工夫があまりなかった。いくつか対角線のサイドトゥサイドの大きなサイドチェンジが効果あったが、札幌ほど継続することがなかった点は鹿島としてはやりやすかったように思う。 ザーゴ監督に比べると、ボール奪取する位置が高いところに設定されていて、今日はそれが好循環を生んだ結果。早速3日後に札幌とのルヴァンカップの試合があり、同じチームに対して監督の違いがサッカーの内容がどのように変わるのかは大変興味深い。 参考サイト

[Column]鹿島アントラーズ ザーゴ監督解任に至った要因を直近2試合から検証する

[Column]鹿島アントラーズ ザーゴ監督解任に至った要因を直近2試合から検証する

2021年J1リーグ第9節の試合後、鹿島アントラーズのザーゴ監督の解任が発表された。8試合で2勝2分4敗の勝点8の15位という成績だった。全20チーム中下位4チームが無条件にJ2に降格する今シーズンということを考えると、降格圏に足がかかっている順位での解任は成績だけみれば最もな決断ともいえるが、一方で直近2試合では1勝1分けとまずまずの成績を残しているし、連敗中には不運な失点も多かった。いち観戦者、視聴者としてみた観点で、上向きにも見えたチーム状況のなか解任の決断となった要因を探ってみたい。 Cover Photo by そらみみ / CC BY-SA 3.0 ポイント1:連敗中の主な敗因や失点シーン #5 Away福岡戦(1-0)での和泉の負傷、関川のレッドカード 442を基調とする鹿島にとって重要なオプションのひとつだった和泉が前半29分で負傷退場。追い打ちとなったのは前半37分のDF関川の一発レッドでの退場。一人少ない状況で耐えていたが、福岡の金森に終了間際に決勝ゴールを許してしまう。 #6 Home名古屋戦(0-1)での犬飼のレッドカード 1点を追う82分にディフェンスの要の犬飼が2枚めのイエローで退場となり、残り10分ほどを残して厳しい状況に。なおかつ、犬飼は次節出場停止のおまけもついてしまう。 #7 Away浦和戦(2-1)でのVAR判定の結果浦和にPK #5でのレッドカードの名誉挽回となる同点弾を関川が奪うも、PAの際どいところでのファールでPKを与えてしまう。VAR判定に持ち込まれた際どい場面だったが、判定覆らず。代表ウィークのブレークもあったが、結果には結びつかなかった。 このように、#5、#6に関しては退場者を出してしまう難しい展開であったし、#7に関しても昨シーズンまでならPKの判定はなかったかもしれない。とはいえ、3試合で1得点4失点では勝点を奪う可能性は感じられないのもまた事実。 ポイント2:連敗を止め、勝利を収めた#8柏戦 連敗の流れのなかで、久々の勝利を収めた柏戦。柏も降格圏に沈む調子の上がらないチームではあるが、監督としては結果を求められるなかで結果を出したかたち。ところが、引き分けとなった次節の試合後に解任を言い渡されてしまう。では、結果はともかく、内容に大きな問題があったのか?というところをみてみたい。 ビルドアップがうまくいかない 鹿島は、GKからショートパスをつないでのビルドアップを再三試みるが、4:40付近に1枚はがしてゴール前にいったシーンを除くと、ほぼ柏のディフェンスにひっかかってしまう。前線には高さ、強さにストロングのあるエヴェラウドがいるため、単純にそこにあてる形もありかと思うが、そういうプレーは選択しない。これが影響しているのかは不明だが、試合の序盤からエヴェラウドのフラストレーションの高いプレーが目立つ。 キープレーヤーによるショートカウンターで得点 鹿島先制のシーン。中盤でレオシルバばボールを奪取し、ファンアラーノへ。ファンアラーノが裏抜けする上田へスルーパスし、そのままシュートからゴール。鹿島のキープレーヤーによってショートカウンターが完成。 得点直後のミスからの失点 久々にリードを奪う展開も、プレスを受けたエヴェラウドが自陣で町田にパスをするが、ずれてしまい、そのまま柏にショートカウンターを完成されてしまう。レオシルバが激しいプレスでボール奪取したのと比べると、さほどプレッシャーがかからない場面での単純なミスによる失点は精神的にもこたえる。少なくともファン・サポーターにとっては残念なもののはず。 勝ち越し点を奪いたいが、ビルドアップがひっかかり、カウンターを受ける 再び得点が必要になった展開のなかでも、ショートパスによるビルドアップを継続し、これがことごとく引っかかる。柏としては鹿島のビルドアップ時に高い位置でボールを奪いカウンターをしかける狙いがあり、これが何度も成功し、シュートシーンを作り出す。鹿島GK沖のファインセーブと、柏の決定力不足に助けられたかたちで、1、2点入っていても不思議ではない展開。 この試合のポイント この試合で気になったのは、「対策されていたビルドアップへの対策」が施されなかったところ。78分に4枚替えをするが、それ以前に投入された土居も含め、戦術的な目的はあまり感じられない印象。試合自体は終了間際にディフレクションしたシュートで勝ち越し点を奪うことに成功。勝利こそ収めたが、、、という感想を首脳陣も抱いたことは想像できる。鹿島の選手のプレーも、失点シーンに顕著なように、止める、蹴るという部分でのミスも目立った。 ポイント3:ビルドアップの形に変化をつけた#9札幌戦 前節兎にも角にも悪い流れを断ち切る結果を手にした鹿島。一つの勝利で大きくチームが変わることもあるため、重要な一戦となった本戦。結果的にはこの試合をもってザーゴ監督は解任されてしまうのだが、前節みられたビルドアップの問題については修正できた場面もあった。 引き続きビルドアップがうまくいかない 前節に引き続き、GKからショートパスで繋ぐスタイルの鹿島だが、サイドにおいやられ、アタッキングサードにもっていくことができない。 一方の札幌は、当初ロングフィードをアンデルソン・ロペスに収めようとするが、鹿島の町田がうまくそれに対処するとみるや、ショートパスを繋ぐスタイルに変更する柔軟性をみせていて、かたくなに同じビルドアップにこだわる鹿島とは対照的。手を変え品を変えながらほころびを探るスタイル、継続することで相手を疲弊させるスタイル、いずれがよいということではないが、鹿島はなぜエヴェラウドの強さ、高さを活かさないのか?という疑問が残る。 ロングカウンターに活路を見出す 自陣からファンアラーノが1人かわしつつ、前線へボールを運び、エヴェラウドへスルーパス、エヴェラウドのシュートはキーパーに阻まれるが、ビルドアップに活路が見いだせない中、ファンアラーノ経由で上田やエヴェラウドにスルーパスを出すカウンターが有効になることを予感させる。一方で、裏抜けからのスルーパスが活路になるなら、果たしてエヴェラウドがそういうタイプのストライカーなのか?というところは少し気になるところ。 前半終了間際にビルドアップを変更 40分すぎの自陣ゴール前でのFKから、初めてロングフィードをエヴェラウドにあてる形をみせる。結果的にこの流れでアタッキングサードへ入り込むことに成功。 集中力を欠くプレーが散見される 42分三竿の自陣ゴール前での不用意なクリアがそのまま相手FWのアンデルソン・ロペスに渡り、そのままシュートを打たれる場面にはじまり、50分すぎにも、ボールを傍観してしまうシーン。直後の51分にもスローインで受けたボールをそのまま外に蹴り出してしまうなど、少なくとも画面に映る範囲において三竿の集中力を欠くようなプレーが散見された。このあたり、試合中にベンチから激を飛ばすにしても限度があるため、いわゆるピッチ上の監督のような存在が必要なのだろう思う。 サイドチェンジに手を焼く 札幌は菅、福森といった自陣左サイドからの精度の高い対角線のロングフィードからチャンスシーンを再三作り出す。札幌金子と鹿島永戸のマッチアップは、金子が左足からのクロスを何度か上げることに成功する。 試合後の監督インタビューで語っていたとおり、三竿を下げ、5バックでこのサイドチェンジに対応しようとしたザート監督。しかし、この対応をする前にまたしてもVARによる際どい判定でPKからの失点を喫してしまう。 同点のシーンながら、ジェイを投入し、前掛かりの布陣をしける札幌にたいして、ディフェンス枚数を増やす選択をし、受けに回ってしまった鹿島という布陣。 この試合のポイント 結果としては引き分けというかたちだが、ホームということもあり、札幌のペトロビッチ監督が先手先手で対応するのに対し、2点先制し、試合の主導権は握れるはずのザーゴ監督が後手に回ってしまう印象をうけてしまう。 考察 結果だけ見れば、1勝1分けで上向いているようにも見える流れだが、先制しつつ追いつかれる展開だけでなく、相手に合わせた試合中の戦術変更の柔軟性の低さが解任の決め手になったのではないかと思います。練習中の雰囲気など、見えない部分に決め手があった可能性も十分ありますが、ピッチ上で「うまくいってない」と感じながら選手がプレーし続けることで、集中力を欠くようなプレーも併発してしまう悪循環におちいってしまったのかもしれない。昨シーズン後半の試合内容は良かった印象だし、待望のピトゥカ合流後の試合もみてみたかったところだが、逆に合流のタイミングで一旦リセットして再スタートするという意味もあったのかもしれない。育成と結果の両方を求められる、若手中心の選手構成で臨む今シーズンの鹿島アントラーズの今後の試合に注目してみたい。 他サイトの考察